選職のために

対談:A・ヒューマン代表取締役糸川俊×キャリア塾塾長 松尾順

A・ヒューマンの掲るキャッチフレーズ「30代の選職」に込める、糸川俊の思いとは。

2007年12月28日

選職のために対談:糸川俊(2)

A・ヒューマンさんのキャッチフレーズとして掲げてらっしゃる「30代の選職」には、いろいろと深い思いが込められていると思います。

株式会社A・ヒューマン 代表取締役社長 糸川俊
糸川俊

松尾:ところで、ちょっと話が戻るようですが、「自分はどんな仕事がやりたいのか」というのは実はかなり難しい質問で、若いうちは特に自分でもよくわからないものですよね。ですから、適当な理由をくっつけて、とりあえずどこかの会社に入るという形にならざるを得ないわけです。ただ、働き始めてからは、まずは今の自分の仕事をこなすのに精一杯で、自分のキャリアの新たな可能性を十分に考える余裕はそれほどないのが現実かなと思うのですが・・・。それでも転職する方は増えていますよね。

糸川:それは、インターネットの影響があると思います。我々の時代を振り返ってみると、当時どうやって仕事を探したかといえば、いわゆる学生のための紙のガイドブックとか、せいぜい会社が出してる会社案内程度。ところが、今はインターネットを通じて企業の基本情報だけでなく、会社に働く人の取材記事や、面接をした学生の声など、実に豊富な情報が入手できます。つまり、今の自分が属する会社や業界以外の多様な会社、業界の存在を簡単に詳しく知ることができるようになりました。それだけ、働く側としては、職の選択肢が広がって見えるわけですし、このことが、冒頭にご紹介した、異業種・異職種への転職が半数近くを占めているというデータの背景にあると思います。

松尾:ただ、選択肢が増えたのは、もちろんありがたいことでしょうけど、では、自分のキャリアにおいて、今は、どの会社なり仕事を選択すべきかという判断は難しいですよね。

糸川:そうなんですよ。いくら情報があふれているとは言え、現実とは異なることも多いですよね。また、俯瞰的な視点、10-20年の長期的な視点の中で、どんな仕事がキャリア形成にプラスになるのかなんて、限られたキャリア経験しか持たない個人ではとても手に負えない。そこで、我田引水的ですが、現場の実情に詳しく、様々な転職希望者のキャリアづくりのケースをお手伝いしてきた第三者の相談員、つまりキャリアコンサルタントの助けを得たらどうかと思うわけです。

キャリア塾塾長 松尾順氏
松尾順

松尾:なるほど。実は、自分のキャリアをデザインするに当たっては、目先の転職以前に3つの観点からキャリアをじっくり考えるべきということを私は言っています。3つの観点とは、「視野」「視座」「視点」です。まず、「視野」は広げなければなりません。つまり、自分の会社、業界だけでなく関連する会社や業界、また余裕があれば全く知らない業界も含めて、そこでは何が起きているのかといったことまで貪欲に情報を集めていくということです。次の「視座」は、高めていく。つまり俯瞰できる位置に立つということですが、これは、日本から世界へという地域的な広がりを視野に入れることができるだけでなく、もうひとつ、5年先、10年先という時間軸の中でキャリアを考えるという意味を含みます。最後の「視点」というのは、キャリアを様々な角度から眺めてみるということです。立場を変えるといえばいいでしょうか。自分の立場、上司の立場、会社の立場、親や家族の立場など、立ち位置の違いによってキャリアの意味意義が異なってきますよね。こうして、キャリアを多面的に捉えることによって、キャリアを深く理解することができるようになるし、今後どんなキャリアを歩むべきかも見えてきます。ただ、これは確かに一人ではとても大変な作業です。私自身、仕事の紹介こそしませんが、キャリア・アドバイザーの仕事をやっているのは、この3つの観点でキャリアを考え、キャリアを設計するお手伝いをすることが、社会人の方のお役に立てると思っているからなんですよ。

糸川:もちろん、友人・知人にもキャリアの相談はできますが、彼らがみな経験豊富で、各業界の人材情報に詳しいとは限らないでしょう。また、知り合いとなれば私情も入ります。(笑)やはり、キャリアについてもプロのアドバイスを求めてほしいと思いますね。

松尾:確かにそう思います。

糸川:ところで、就職、就社をキャリアの入り口とすると、出口は退職、退社ですね。そして、会社には定年があり、具体的には60歳とか63歳と決められています。ところが、会社ではなくて、職種における定年というのがあるのです。たとえば、製薬会社のいわゆる営業担当者である「MR」という職種でやれるのはおおむね35歳まで。このあたりの年齢になると、他の仕事に移ってくださいと言われることが多いようです。人事制度上の定年退職とは意味合いが違いますので、実質的な定年という意味ですが。

松尾:なるほど。ITエンジニアも35歳限界説というのを言われてきましたが、職種によっては、ある程度の年齢までしか一線でがんばれないというものもありますよね。

株式会社A・ヒューマン 代表取締役社長 糸川俊
糸川俊

糸川:まあ、それに会社にもたらす収益と、自分が得る収入のバランスが取れなくなってくるというのもあります。ともあれ、ある職種についてから、ただがむしゃらに目先の仕事をこなしているだけだと、たとえ相応の成果を収めていたとしても、ある日「もうこの仕事はあなたにやってもらわなくて結構です」と言われて、愕然とする事態になりかねません。ですから、長期的な視点でキャリアを考え、現在の仕事でだけに通用する能力を磨くだけでなく、将来のキャリアチェンジを見越した周到な準備も必要だということです。

松尾:そういえば、聞きかじりの話ですが、米国のFRB(連邦準備制度理事会)元議長のアラン・グリーンスパン氏は最近の講演で、変化の激しい今、あらゆるものの陳腐化が進んでいるため、ひとつの仕事のみで生涯を終えることはもはや不可能であり、ひとつの仕事から次の仕事へと移ることのできるスキルを身につけることの重要性を強調していたそうですよ。

糸川:どの会社でも通用する、言い換えると高く評価されるような汎用的なスキルをどうやって身につけるかというのは、これからの社会人にとって最重要課題のひとつだと言えますね。そのために、戦略的に転職を活用するということが実は可能です。

松尾:戦略的な転職というのは具体的には?

糸川:たとえば、ある業界は、どこの業界かは申しませんが、就職・転職先としてはあまり人気は高くありません。しかし、私が知るその業界の某企業は、社員育成の制度がすばらしく整備されているんです。たとえば、人事部門に配属されると、採用、教育、労務、人事制度などさまざまな分野を万遍なく経験させてもらえる上に、ジョブ・ローテーションで海外勤務が可能です。2~3年海外支店で勤務すると、いやが応にも英語力は鍛えられるし、文化も吸収できる。ここの会社で10年もやれば、優れた人事マンとして、他の業界でも引く手あまたの人材に育つというわけです。ところが、こうした仕組みが回っていない会社では、採用ばかり10年ずっと担当させられてきたという人もいます。こうした人は、転職時もあまり評価されませんし、仮に転職できたとしても、いきなり人事制度の運用を任されたら経験がないため対応できませんよね。ですから、会社は、そこで働くことによって、自分の市場価値が高められるかどうかで選んでほしいと思うわけです。ちなみにこうしたアドバイスができるのもキャリアコンサルタントならではですよ。

松尾:その通りですね。さて、今回のお話の結論としては、「選職」という、自分のキャリアづくりのための自律的・積極的な仕事選びに成功するために、ぜひキャリアコンサルタントに相談したらいかがでしょう、というところでしょうか。(笑)
本日はどうもありがとうございました。

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