
キャリアエッセイ(キャリア塾 on site)
キャリアエッセイ:ワークとライフの統合
ワークとライフの統合
こんにちは!
A・ヒューマンキャリア塾塾長の松尾です。
先日、私が2004年に受講した
「人事プロフェッショナル養成講座」(主催:慶応丸の内シティキャンパス)
の「フォローセッション」に参加しました。
講師は、キャリア論の権威、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、高橋俊介氏。
高橋先生は、同大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリーの研究員も務められています。
「人事プロフェッショナル養成講座」は04年以来毎年開催されてきました。
そして、先日のフォローセッションは、過去の同講座受講者を対象として、
最新の人材マネジメント動向を学ぶために開催されたものです。
この講座、受講者のほとんどが当然ながら人事部門の方です。
私は人事の経験はありませんので、「人事のプロ」ではありませんし、
明らかに‘門外漢’ではあります。
しかしながら、キャリアアドバイザーとしては、
企業の人事の方がどのように人材やキャリアを捉えているのかを知っておくことも必要だと
考えています。そこで、これをを知ることのできる貴重な機会として同講座を受講したのです。
今回のキャリアエッセイでは、高橋先生のお話の中から、
働く側の立場である皆さんにとって参考になると感じたポイントをご紹介したい
と思います。
高橋先生のお話の核は、
「ワーク(仕事)」と「ライフ(人生)」のインテグレーション(統合)
でした。
すなわち、「ワーク(仕事)」と、「ライフ(人生)」の諸側面、端的に言えば「私生活」との統合
(インテグレーション)を図ることが、社員が活き活きと働き、また高い業績を上げるために重要であること、
そして、そのための支援を企業が行うことが必要になってきているということです。
こうしたテーマに関心のある方は「おや・・・?」っと思われたかも知れません。
上記のような考え方は、一般に
「ワーク・ライフ・バランス」
と呼ばれているんですよね。
なぜ「バランス」ではなくて、「インテグレーション」なのでしょうか?
実は、慶応のキャリア・リソース・ラボラトリではバランスと言う言葉を以前から使っておらず、
インテグレーション(統合)という言葉を採用しているそうです。
なぜなら、「バランス」という言葉には、私たちが社会生活を営む上で果たさなければならない
様々な役割や義務をどううまくこなしていくかという響きがあります。しかし、
そもそも私たちは、以前は「仕事」と「私生活」を明確に区別していなかったという点を踏まえると、
「統合」がより適切な言葉だと考えられるからです。
上記の「以前」というのはおおよそ産業革命以前のことです。
大規模生産(マスプロダクション)が開始され、会社や工場といった職場に働きに行くようになる
前の私たちは、多くの場合、自宅、またその周辺が労働の場であり、かつ生活を送る場でもありました。
したがって、この時代の人々は、男性にしろ、女性にしろ、働く合間に家事や遊びを柔軟に挟み込むと
いったことを日常的にやっていたわけです。そして、意識としては、働くことも家事も遊びもすべて
人生を構成する要素であり、あえて区別をしていなかったはずです。
つまり当時は、ワークとライフは「統合」されていたんですね。
ところが、産業革命以降、職場と自宅(家庭)が分離され、労働時間も1日当たり8時間や10時間などと
厳密に決められるようになると、ワーク(仕事)とライフ(主に私生活)の分離が始まります。
働く時間を「オン」、働いていない時間を「オフ」と呼んで明確に区別するようになったわけです。
すると、困った問題が起きてきます。
「オンとオフのどちらが重要なのか」
という二元論的な発想がどうしても生まれてきてしまうのです。
しかし、そもそも仕事も私生活も、どちらも一人ひとりの人生の大切な構成要素です。
どちらが重要なのかという質問を投げかけるべきではありません。
私たちが人間らしく生き、充実した人生を送るためには、働くことも私生活もどちらも重要なのです。
ですから、「ワーク」と「ライフ」のバランスを取るという考え方ではなくて、
現在は分離されているが、もともと統合されていたものなので、「統合」すべきという考え方を
慶応リソースラボラトリーではしているとのことでした。正確には「再統合」と言うべきですが。
ただ、「ワーク・ライフ・バランス」を「ワーク・ライフ・インテグレーション」へと表現を変えたところで、
現実問題として、私たちは、仕事と私生活とのはざまで葛藤し続けているということには変わりがないですよね。
特に近年は、グローバルな競争に巻き込まれた企業は、生き残りのためにコスト削減を迫られており、現場はぎりぎりの人数で膨大な仕事量をこなさなければなりません。その結果、あくまで全体で見ればということですが、仕事の1日に占める割合がどんどん大きくなり、私生活に割ける時間が削られてきています。
これまでは、そんな厳しい状況もやむを得ないと、企業側も働く側も考えていた節がありますよね。
ところが、やはり私生活が圧迫され、人間らしい生活が送れなくなると、
労働意欲が減退し、個々人の業績が低下することがはっきりとわかってきたのです。
また、そんな会社には優れた人材が集まらないという事態になってきました。
そこで、企業側も、ただ社員に対して働きやすい職場環境を提供するだけでなく、
仕事と私生活をうまく統合できるような支援をやるしかないと思い始めたのです。
高橋先生が、講義の中で面白い話をしてくれました。
大阪のカリスマ熱血体育教師として知られた原田隆史氏という方がいます。
荒れた中学を建て直し、陸上部を率いて何人もの日本一を出した優れた指導者です。
原田氏は、現在は起業され、一般企業の社員教育も手がけられているのですが、
ある時、某企業から成績の振るわない社員の教育を任されたのだそうです。
いわゆる「ローパフォーマー」と呼ばれる社員の教育をしばらく続けた後、
原田氏は気づきました。低い成果しか上げられない社員のうち、
半数は、社員自身の能力の問題以前に、家庭に問題があったということです。
具体的にどんな問題があったのかはわかりませんが、例えば奥さんが病気だったり、
子供が不登校だったりという問題があったようです。家庭にこうした心配の種があると、
なかなか仕事に打ち込めないのが人情というものでしょう。家庭の事情が成果を出すための
やる気をそいでいるという社員が半分もいたということです。
当然ながら、こうした社員たちの場合、家庭の悩みを解決しない限り、
原田氏のような辣腕教育者でもやる気を回復させることはできないのです。
だからこそ、企業は、会社の業績のためにも、また社員の幸福のためにも、
ワークとライフの統合を真剣に考え、また企業として可能な支援を行うべきであるという認識が
高まっているのでした。
こうした企業の変化は、働く立場の皆さんにとっては大変ありがたいことですよね。
特に、女性に対しては、出産・育児休暇や、託児所が充実させる企業が増えてきており、
仕事のために、子供を持つこと、あるいは逆に、子供のために仕事をあきらめなくても
いい状況になりつつあります。
とはいえ、あまり会社に期待しすぎてはいけません。
自律的なキャリアの視点から言えば、仕事、そして私生活も
それぞれ充実したものとなるようなセルフコントロール力が不可欠です。
会社でも中堅クラスになってくると、仕事がどんどん面白くなってきます。
ついつい、仕事にばかりのめり込んでしまう。
しかし、一方で家庭をなおざりにしすぎると、不思議と家庭に問題が起きやすくなります。
つまり、やる気を低下させる種を自分がまいてしまうのです。
そもそも、仕事ばかりで私生活が無い毎日を送っていると、
社会から遊離してしまい、ユーザーニーズを敏感に察知する能力や
豊かな創造力が失われてしまいます。
ですから、もちろん社会人のあなたにとって「仕事」が最優先になるのは
仕方ないしいても、ライフとの統合をうまく図ることもぜひ心がけてほしいと思います。
少々過激な意見を言わせてもらえば、
毎日が仕事一色にならざるを得ない、そうしたことを強要される会社に
働いていらっしゃるのなら、早々に縁をお切りになることをお勧めします。
by 松尾順


