キャリアエッセイ(キャリア塾 on site)
このところ立て続けに告発され、マスメディアで報道される企業の不祥事に対して、皆さんはどのようにお感じになってらっしゃいますか?
キャリアの「社会性」
このところ立て続けに告発され、マスメディアで報道される企業の不祥事に対して、皆さんはどのようにお感じになってらっしゃいますか?
企業の糾弾がこの拙文の目的ではないので、特定企業名を出すことは避けますが、介護、語学教育、食品製造、古書販売など、悪質な行為を行っている企業は、さまざまな業種・業態にわたっていますね。
これらの企業に共通しているのは、結局のところ「トップ」すなわち経営者のあくなき「事業拡大欲」です。
確かに、企業、特に組織体として多数の社員を抱える企業は、一定の成長を続けることが必要です。なぜなら、成長を続ける中で新たな仕事、難易度の高い仕事が生まれるため、社員に対して、常にやりがいのある仕事を与えることができるからです。また、以前ほど魅力を感じる社員は少なくなったとは言え、やはり昇進の機会は、社員の動機付けとして有効だからです。
しかし、行き過ぎた事業拡大欲は、しばしば人の道を踏み外す行為を誘発することになります。売上や利益といった、本来事業活動の結果であり、また、「顧客満足の反映」と考えるべき単なる目標数字の達成が最優先となった結果、帳簿の改ざん、不正な請求、顧客の不利益となるサービス形態の押し付け、コスト削減のための原材料の偽装など、客観的に見て明らかにおかしい、悪質な行為だと当事者もわかっていながらやってしまう。
ただ、悪事を働いた現場の社員は、組織の命に従っただけという言い分けができてしまうんですよね。また、たとえ悪いことだと思っていても、従わざるを得ない弱い立場にある。命令に背いて窓際に追いやられたり、最悪、解雇されてしまうかもしれないというリスクを負ってまで拒否することはなかなかできません。その意味では現場の社員もまた、トップの事業拡大欲の被害者と言えるんじゃないでしょうか。
ですから、結局のところ、企業の良し悪しはトップの考え方次第だということになると思います。
さて、事業拡大欲に溺れた経営者が見失ってしまったことは何でしょうか?
それは「社会性」です。
企業もまた、社会を構成する一員であり、社会に対して「価値ある何か」を生み出し、提供することによって対価(売上)を受け取っているのだということ。また、利益は、「価値ある何か」の価値をさらに高めるため、また継続的に提供するために必要なのであって、経営者の私欲を満たすためだけに使われるべきではないこと。
こうして書いてしまえばごく常識的なことですが、自分のやることなすことうまく行き、事業が順調に拡大すると、「自分は事業の天才である」といった万能感に満たされてついつい「社会性」が隅っこに押しやられてしまうようです。
ところで、この「社会性」は、言うまでもなく個人のキャリアにおいても重要な意味を持っています。
キャリアデザイン基礎講座の第5回「キャリアの選択基準」において、私は次の3つの視点を質問の形で示しました。
・あなたが、仕事に関してできることは何ですか?
・あなたが、仕事に関してやりたいことは何ですか?
・あなたが、仕事に関して「意味・価値」を感じることはなんですか?
このうち、一番最後の
・あなたが、仕事に関して「意味・価値」を感じることはなんですか?
は、「社会性」に深く関係しているのです。
とかく若いうちは、自分の好きな、やりたい仕事を見つけたい、能力を伸ばしたいと考えるだけで終わることが多く、仕事の「意味・価値」まで考えることは少ないでしょう。しかし、ある程度、やりたい仕事が漠然と見えてきて(あるいはまだ見えないまでも)、自分の得意・不得意もわかってくる30代からは、「自分の仕事はどんな意味があるのか、どんな価値があるのか」ということが気になり始めます。
そしてここでの「意味・価値」というのは、結局のところ、「自分は社会に対してどんなお役立ちができているのか」ということなのです。
人は集団を形成し、お互いに協力しあう動物です。人類が誕生してからずっと、集団の一員として生きることを続けてきました。ですから、自分さえいいと思っていれば他人は関係ないと割り切ることができません。群れを作らず、孤独に生きる動物ではないのです。人は、他人に対して何かを提供して感謝されたい。他人に必要とされる人間でいたいと、意識的にあるいは無意識的に強く願っています。
こうした欲求は「集団欲」と呼ぶことができますが、これは食欲、性欲と並ぶ本能のひとつなのです。したがって、集団欲を満たし、納得できる幸せなキャリアを形成する上でも、自分のキャリアの「社会性」をじっくり考えることはとても意味のあることだと言えます。
・あなたは、自分の仕事を通じて、社会にどんな貢献をしたいですか?
・あなたは、自分の仕事を通じて、どんな人のどんな問題を解決し、あるいは欲求を充足してあげたいですか?
上記の質問に迷いなく答えることができ、そんな仕事に今就けているなら、その仕事は間違いなくあなたにとって「天職」と呼べるものであるに違いありません。
by 松尾順


