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キャリアエッセイ(キャリア塾 on site)

先日、業務のため四国に3年間ほど滞在している間に、
「お遍路さん」に挑戦した友人の話を聞く機会がありました。

2007年10月23日

ギブ&ギブンの思想

こんにちは!
A・ヒューマンキャリア塾塾長の松尾です。

先日、業務のため四国に3年間ほど滞在している間に、

「お遍路さん」

に挑戦した友人の話を聞く機会がありました。

お遍路さんは、弘法大師ゆかりのお寺(昔、巡礼者が参拝する際、お寺に「お札」(おふだ)を打ち付けたことから、「札所」と言います)である「四国八十八箇所」を巡る旅であることはご存知ですよね。

本来、お遍路は徒歩で巡礼するもの(「歩き遍路」と言います)ですが、今は車や交通機関、あるいは自転車を利用する方が多く、徒歩で巡る方は2割程度のようです。

「お遍路」の全行程の長さは1200-1400キロメートル。徒歩だと1日30キロ前後しか進めませんから、全部巡るのに40-50日程度かかる計算になります。しかし、友人(以下、Yさんと呼びます)は、最も大変で時間のかかる「徒歩」で挑戦、滞在中に見事達成しています。すばらしいですね!


さて、「お遍路さん」は、そもそも修験者の修行です。

ただ、最近は、信仰に基づくものよりは、自分探しや癒しを求めて、また定年退職者の記念に、といった理由で挑戦する人が多いようです。それでも、一種の「修行」であることには変わりありません。忙しい日常から離れ、ひたすら遍路道を進む。暑さ寒さや足の痛み耐えつつ、自分自身の生き方についてじっくりと考える時間が取れる機会となるようです。

お遍路さんと言えば、白装束姿に、頭にかぶる三角形の「菅傘」、手に持った「金剛杖」の姿が目に浮かびますね。必ずしもこうした格好をする必要はないそうですが、お遍路さんらしい外見になることによってスイッチが切り替わる効果があるとYさんは言っていました。

Yさんは、お遍路さんを体験することで多くの貴重な学びがあったそうですが、今日は

「お接待」

についてご紹介したいと思います。「お接待」とは、お遍路さんとなって歩く道すがら、地元の人からさまざまな「施し」を受けることです。「施し」は果物であったりお金であったり、また車に乗せてもらえたり、「うちに泊まっていけ」と言われることもあるようです。

Yさんの場合、百円玉3枚、つまり300円を直接手渡されたことがありました。せめて「ポチ袋」に入れて渡したらと思いますが、せっかくのお恵み、文句を言ってる場合じゃありませんね。この「お接待」は原則として断ってはいけないのです。

Yさんの場合「歩きお遍路」でしたから、「お接待」を受ける回数も多かったようです。

ベタな表現でばちが当たりそうですが、「タダ」(無料)で様々な「施し」がいただけるのは、お遍路さんの特典、メリットですよね。なんともうらやましい限りですが、当の本人はそんな気楽な心境にはなれなかったのです。

なぜだかわかりますか?

それは、最初のうちはいいけれども、そのうち、もらってばかりで相手になんら「お返し」ができないため、心苦しくなってくるからなのだそうです。

行く先々で名も知らぬ親切な人々から、貸しがあるわけでもないのに次々と「お接待」される。もちろん「お返し」は不要なのですが、それでも「心理的な負債感」(=借り)はどんどん積もっていくわけです。

こちらが「与える」ことではなく、「受け取ること」「もらうこと」つらいと感じる気持ちって、お遍路さんをやってみないとピンとこないですよね・・・

しかし、たとえつらくても「お接待」は感謝して受け取らなければなりません。修行だからです。

では、「お接待」とは、いったいどんな意味を持つ修行なのでしょうか。

私なりに考えてみると、それはおそらく、生きるためには、いかに多くの人から自分が支えられ、与えられているかということを再認識することだと思うのです。


私たちは社会人として独立すると、文字通り一人で生きていけることが「自立」だと考えがちです。しかし、私たちは、単独行動をする動物ではなく、群れを作る動物です。私が以前も何度か強調してきたように、自立するだけのなんらかの能力を持つことは大前提として、社会の中では、お互いに相手の強み・弱みを補い合う「相互依存」の関係が成立しています。「持ちつ持たれつ」ということです。

より具体的に言えば、相手が求めている何かを自分が与える。逆に、自分は持っていないが欲しい何かを、相手から提供してもらう。こうすることで一人では満たされない、より大きな望みが叶う。「お接待」を体験することで、自分がこうした相互依存の関係にある社会の一員であることを深く認識することができるんじゃないでしょうか。


ただ、ひとつ留意したほうがいいのは、

「打算的な考え」

を強く持ちすぎないほうがいいということです。

打算的というのは、あなたが私の欲しいものをくれるなら、私もあなたの欲しいものをあげましょう」と交換条件をあからさまに示した

「ギブ&テイク」(与える&もらう)

的考え方です。

ビジネスの場面においては、もちろん「ギブ&テイク」的考え方も欠かせません。

しかし、「相手から何かをもらえない限りは、こちらも与えない」という発想だけだと、本当に単なる機械的な取引になってしまいます。そこには人間的な交流や信頼関係は生まれません。わざわざ人と人が会う必要はなく、コンピュータ同士で取引すればいい話じゃないでしょうか。

しかし、現実の仕事はそんな打算的な発想ではうまく行きませんよね。

取引を行うのはしょせん感情の動物でもある人間です。信頼関係や、好き嫌いが大きな影響を持ちます。

あなたは、打算的なだけの人間と付き合いたいとは思わないでしょう。むしろ、自分が短期的には損するとわかっていても、相手に「与えること」を優先する、そんな優れた人間性を持つ人と付き合いたいと思うはずです。



さて、今回のタイトルの「ギブ&ギブンの発想」は、女性起業家として有名な、佐々木かをりさんの言葉です。私がこの言葉を知ったのは10年以上も前ですが、「ギブ&テイク」という打算的な発想ではなく、

まず「与えること」(ギブ)によって、結果的に回りまわって自分の求めているものが「与えられる」(ギブン)という考え方に大きな感銘を受けました。


佐々木さんは、著書『自分が輝く7つの発想』(知恵の森文庫)の中で次のように書かれています。

“「ギブ&ギブン」という言葉は、自分の行動や発言をチェックしていくための道具として効果的だ。時間を与えたり、情報を与えたり、笑顔を与えたり、意気込みを与えたり。私は、「自分から、まず与える:」ということを自己訓練の一つだと、自分に言い聞かせている。損得勘定でものを考えることほど空しいことはないし、他人から奪おうとしても何もうまくいかない・・・”



「自分から、まず与える」


これは、人生、そしてキャリアにおける成功法則の一つです。


by 松尾順