キャリア塾

キャリアインタビュー:原田雅弘氏

2007年1月18日

キャリアインタビュー:原田雅弘氏(2)

では、30代のほとんどを過ごされたジャーディンマセソンでは、どんな経験や学びがありましたか?

プーマ ジャパン株式会社 代表取締役社長 原田雅弘氏

ジャーディンマセソンは日本に進出した外資第1号であり、長い歴史のある商社です。同社では、英国企業らしい、堅実、几帳面な経営スタイルを学んだと言えますね。冒頭お話したように、スポーツ事業を担当した後、同社では2番目に取り扱いの大きい化粧品事業を任されました。当時の化粧品事業は、収益性、人事管理、在庫管理に問題を抱えていましたが、最初の1年で、これらの問題を解消することができました。

短期間で成果を出されたんですね!どんな姿勢で取り組まれたのでしょうか?

一言で言えば、「正面からぶつかる」ということです。
根回しとか裏技とかは一切使わない。当たり前のことをきっちりやるということですね。利益率が低いとか、無駄な在庫が多いといったことは、ロジックを突き詰めれば解消できます。問題点がはっきりしたら、それを解消できる手を打つだけのことです。

また、人事管理の問題としては、美容部員の待遇改善がありました。化粧品を販売する美容部員は、海外の一流ブランド扱うという誇りを持って仕事をしてくれていたものの、一方で、あまり正当な評価を受けているとは言えませんでした。そこで、私が責任者になってからすぐに、彼らの評価制度を見直しました。また、オフィスを移転・改装し、職場環境も改善しました。おかげで彼女たちの志気はおおいに上がりましたね。

87年には、クリスチャンディオールの日本法人の設立に伴い、美容部員を含む全社員は、ジャーディンマセソンから同日本法人に移籍させるという経営判断が下されました。慣れ親しんだ現在の会社から、できたばかりの新しい会社に移ってもらうわけですから、当然ながら大多数の社員からの抵抗があったわけです。しかし、私は正面から取り組み、率直に彼らに会社の方針や将来の見通しなどを話して理解を得ることができたのです。これは、30代で最も大変な仕事だったと言えますが、PUMAの日本法人設立においては、この経験が大いに活かせましたね。

30代では、人のマネジメントにご苦労されたというか、そちら方面の経験が一番大きいものだったわけですね。

プーマ ジャパン株式会社 代表取締役社長 原田雅弘氏

私は、どんな経験もすべて「こやし」になると思っています。それまでやってきたブランド構築や営業、マーケティングの仕事は私にとって日常でしたが、この様な特別な人事に関わる仕事は非日常の体験だったわけです。しかし、どんな問題であれ、現場の声に耳を傾け、問題をあるがままに見つめれば、「あるべき姿」が浮かび上がってきます。そして、私自身も、率直に自分の考えを現場に伝える、本音で向き合うという方針を貫いてきましたし、それが結果につながったのだと思います。

原田社長がそうした信念・信条を持たれるようなった背景には何があるのでしょうか?

学生の頃、運動部に所属してスポーツをやってきたことがあるでしょうね。高校まではバスケットボール、大学ではテニスをやっていました。スポーツはごまかしがききません。一夜漬けでは勝てないし、反復練習を続けなれば上達しません。ただ、それでも確実な成果が約束されているわけでもない。スポーツを通じて得たものは大きいです。

原田社長のキャリア形成に大きな影響を与えた方はいらっしゃいますか?

そうですね、影響を受けた方はたくさんいらっしゃいますが、あえて挙げるなら、ジャーディンマセソンの当時の社長、安田弘氏、そして副社長のジェームス・ローソン氏でしょうか。ローソン氏はすでにイギリスに戻っていますが、今でもお付き合いがあります。

ローソン氏からは、英国流の合理的でスピードのある経営判断、徹底してやるという姿勢を学びました。日本人は問題を先送りにしがちで、ぎりぎりまで手をつけない傾向があります。しかし、英国人は、ある意味冷たいというか、情に流されることがありません。ただ、断固とした態度で厳しい決断を下しながらも、実は心を痛めながら取り組んでいたのです。表面的には冷たいように見えるけれど、内面には深い感情を秘めていることが私には感じられたのです。
加えて、現在コロンビア・スポーツウエア・ジャパンの社長をしている、佐野敏男氏も一年後輩ですが、大沢商会、ジャーディンマセソン両社で共に働いた仲間として学ぶところが多かったです。 現在も色々と刺激を貰っています。

原田社長がご自身のキャリア形成を通じてつかんだ仕事のコツといったものはありますか?

プーマ ジャパン株式会社 代表取締役社長 原田雅弘氏

社員にも常日頃言っているのですが、次の3つの要素のバランスが重要です。


・ 技術・知識(エキスパティーズ)
・ 人柄(パーソナリティ)
・ 度量(マグナニミティ)

技術・知識は、エキスパティーズ(専門性)のことであり、反復練習によって身に着けることができる。たとえば、当社のような外資系企業では英語力が必須ですが、その気になれば留学しなくてもマスターすることができます。

一方、人柄や度量は、生まれ育った環境の影響が大きく、必ずしも努力してなんとかなるというものではないのですが、仕事で成果を出すためには、この3つの要素を磨き続け、ベストのバランスを追求すべきだと考えています。

最後に30代の読者の方にメッセージをお願いします。

20代は吸収する時期ですが、30代は、「実践する時期」だと言えるでしょう。とにかく真剣にやってみる。失敗が取り返せる時期です。そうして、40代では、30代の経験をスケールアップし、50代で刈り取る。

前述したように、あらゆる経験が「こやし」であり、自分の血肉となっていきます。無駄な経験というものはありません。積極的に行動してください。そして、反復練習によって技術・知識を着実に自分のものとしていきましょう。

(聞き手:松尾順)