
キャリアデザイン基礎講座 第8回 キャリア・トランジション
これまで7回にわたり、キャリアデザインを行うに当たって、理解しておいてもらいたい基本的な考え方をお話してきました。
最終回となる第8回は、「キャリア・トランジション」について解説しましょう。
キャリアの節目
そもそも、キャリアデザインは、「キャリアの節目」に行うものです。
では「キャリアの節目」とはどんな時期なんでしょうか。
キャリアの節目は、もちろん個人差がありますが、おおむね10年置きくらいにやってきます。最初の節目は、学校を出て初めて会社勤めをする時です。学生が就職活動をする時期がまさに節目の真っ最中です。なにしろ、人生で初めて、職業、あるいは会社を選択する重要な決断を迫られるわけですから。
ただ、学生の場合、働いた経験といえばパート・アルバイト位ですし、社会の仕組みなどもよくわかっていません。自分が社会人としてどんな能力や適性があるのかについての理解度も低いので、この時期のキャリアデザインはどちらかといえば机上の空論というか、理想に走りすぎたり、あるいは逆に保守的になりすぎといった極端なものになることが多いようです。
しかし、それはある程度やむを得ないことです。夢に描いていた職場と実際はまるで違っていたという現実に直面するのも、長い人生におけるひとつの試練として、人間的成長のために必要だと私は考えています。
次のキャリアの節目は30歳前後です。(ちなみに、A・ヒューマンキャリア塾は、主に30歳前後の方を対象としています)
この年齢くらいになると、ある程度仕事・会社になれ、自分の能力、適性、やりたいことが多少見えてきます。会社規模によっては、部下を持つ管理職に就く人もいらっしゃるでしょう。これまでは、上司・先輩に教わりながらどちらかといえば受身で仕事をしていたとすれば、これからは、能動的に仕事を作っていく、また部下、後輩を指導する立場へと一段階上を目指すべき時期となります。
ここで、自分のキャリアづくりのために、必要とあらば新天地を求める、すなわち「転職」を真剣に考える方も増えてきます。(最近は20歳前半で入社早々、転職してしまう人が増えていますよね。しかし、入社した会社の待遇や職場環境が社会通念に照らして悪すぎるといった場合を除いては、本来、仕事を覚える時期にあまり職場を変えない方がいいのです)
そして、さらにまた10年後の40歳前後。
この時期は、今後の会社での自分の将来が、かなりはっきり見えてきます。管理職として、部長、取締役とさらに上を目指していけるのか、それともスペシャリストとしての道を極めるかという判断をしなければならない人が多いでしょう。また、残念なことですが、自分の活躍できる場所がだんだんとなくなっていく可能性もあり、転職や、あるいは、これまでの経験・スキルや人脈を活かして独立や起業を図るということも選択肢として考えられます。
40歳前後は、「人生の正午」とも言われますし、また社会人になっておよそ20年、定年の60歳前後まで残りも約20年ということで、ちょうど折り返し地点でもあります。まだまだ可能性が広がる30歳前後と異なり、40歳前後は、ビジネスパーソンとして何を達成すべきなのか、したいのか、といった目指すところを絞込む決断が求められる時期と言えるでしょう。
次は50歳前後の節目。定年退職も近く感じられるようになり、第二の人生をどうするかという大きな課題を踏まえたキャリアと人生設計をやる必要性にかられるでしょう。そして60歳前後、一般の会社員なら長年勤めた会社を退職し、新たな人生を踏み出すことになります。今は、昔よりも随分平均寿命が伸び、退職後もたっぷり20年の時間があります。若い頃ほどの気力・体力は残っていないかもしれませんが、なにか新たなことに取り組み、仕上げるには十分な時間が残されているといえるでしょうね。
キャリア・トランジション・サイクル
さて、こうしてキャリアの節目を概観してみるとおわかりになると思いますが、キャリアの節目とは、別の新しいステージへと移行する段階であるということです。過去の延長のままの考え方や行動を続けるのではなく、根本的な転換が必要になってきます。こうした時期のことを英語では「キャリア・トランジション」(キャリア移行)と呼びますが、従来とは異なる、新たな考え方や行動に切り替えていくことには心理的抵抗がありますし、また慣れるまでは大変な思いをすることも増えます。しかし、それは新たなステージ(それはキャリアにおける成長につながるものであるべきですが)へと進むために乗り越えるべきことです。そして、新たなステージへの移行が完了したら、しばらくはそのステージの中でのパフォーマンスを楽しむ時期です。
でも、前述したように、しばらくすると再びキャリアの節目が到来します。次なる新たなステージへの移行のための変化を乗り越えなければいけません。こうして、人間は何度もキャリアの節目を迎え、「キャリア・トランジション」を乗り越えながら、キャリアを発達させ、また人間的成長・成熟を成し遂げていきます。こうした繰り返しを「キャリア・トランジション・サイクル」と呼びます。
もうひとつのキャリア・トランジション・モデル
では、「キャリア・トランジション・サイクル」として望ましいモデルについてご紹介しましょう。
この基礎講座では、神戸大学大学院教授、金井壽宏先生の説を示します。
金井先生は、以下の説を「もうひとつのキャリア・トランジション・モデル」と名づけられています。
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1.キャリアに方向感覚を持つ
大きな夢、でも現実吟味できる夢を抱く。生涯を通じての夢を探しつつ、節目ごとの夢(修正)
2.節目だけはキャリアデザインする
人生や仕事生活の節目ごとに、なにが得意か、なにがやりたいか、なにに意味を感じるかを自問して、キャリアを自覚的に選択する
3.アクションをとる
デザインしたら、その方向に力強い最初の一歩を歩み、元気を持続する。MER(最少必要努力投入量)を超えるまではよい我慢はしつつ、がんばってアクションを繰り返す
4.ドリフトも偶然も楽しみながら取り込む
あとは、つぎの転機までは、安定期にも退屈することがないように、偶然やってきた機会も活かす。ドリフトもデザインとして楽しむ。
(「ドリフト」とは、文字通り「流れる(流される」」ということ。思わぬ人事異動など、計画外の出来事もチャンスとして捉えて受け入れてみる、つまり運命に素直に従ってみることを意味します。そうした計画外の出来事のおかげで、天職に出会えることもあるからです)
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上記の「キャリア・トランジション・モデル」について私なりの解説を加えさせていただくと、1.の「キャリアに方向感覚を持つ」は、まったくの絵空事ではないという意味で、「現実吟味ができる夢」である必要はありますが、生涯をかけるような大きな夢であればあるほど、まるでいつも同じ方向に見える北極星のような役割を果たしてくれます。あなたが進むべき先をいつも示してくれるというわけです。ここで、生き方についての基本的な価値観である「キャリアの羅針盤」(第6章)を意識するのも有効でしょう。
また、4.の「ドリフトも偶然も楽しみながら取り込む」という視点は、近年のキャリア論で大切だと考えられるようになってきたことです。キャリアも人生も計画通りに展開することはありません。将来どうなるか、本当のところはだれも正確には予測できません。つまりこの世界は、「不確実な世界」なのです。こうした世界に生きる私たちにとって、必要なことは、計画にこだわりすぎることなく、むしろ、おおきな方向感覚や基本的な価値観を大切にしながら、日々変わる状況に応じて柔軟に行動を変化させることです。そして、予期せぬ出来事をむしろ好機ととらえて活かしきるという積極的な姿勢が、「幸せなキャリア」への最短距離になるのです。
あなたの「幸せなキャリア」の実現をお祈りしています!
*金井先生の「もうひとつのキャリア・トランジション・モデル」は、
「働く人のためのキャリア・デザイン」(金井壽宏著、PHP新書)
から引用さえていただきました。同書は、とてもわかりやすく書かれたキャリアデザインの教科書です。一読をお勧めします。
(文責)松尾順
2007年3月22日


