
キャリアデザイン基礎講座 第6回 キャリアの羅針盤
今回は、あなたが
「どんな人生を‘成功’と考えるか(考えたいか)」
についての基本的な方向性をお話しましょう。
私は今、あえて「成功」と書きましたが、「成功」という言葉で多くの方がイメージするであろう
「金持ちになる」「偉くなる」「有名になる」
といった目標は、誰もが望むものではないことはおわかりになりますよね。
キャリアや人生には本来、絶対的な目的はなく、大事なのはあなた自身が幸せと感じる、また納得できるキャリアかどうかである、ということは、当キャリアデザイン基礎講座第3回「キャリアの目的」で強調しました。
ですから、そもそもA・ヒューマンキャリア塾では、あなたが納得できるかどうかに基づく「幸せなキャリア」の実現を支援することを基本指針としているわけです。世間では、「成功するキャリア」と言うのが一般的なので、あえて冒頭にそのように書きましたが、当キャリア塾では、「成功するキャリア」もまた、「幸せなキャリア」であることを大前提としている点をぜひご理解ください。
キャリアの羅針盤は、キャリアの持論を形成する核となるもの
また、第3回では、「幸せなキャリア」を実現するために、あなたなりのキャリアに対する価値観や考え、すなわち「キャリアの持論」を明確化しておくことをお勧めしましたが、今回お話しする「キャリアの羅針盤」は、その持論を形成する核となる生き方の「指針」です。
羅針盤、すなわち方位磁石を持っていれば、あなたの人生、キャリアにおいて進みたい方向を間違ったり迷うことがありません。ですから、特にキャリアの転機をあなたが迎え、転職や第二の人生を踏み出す時に大いに役立つものになるでしょう。
キャリアの羅針盤:5つの方向
さて、今回ご紹介する「キャリアの羅針盤」は、米国ブリカムヤング大学教授、Brookly Derr氏の米国人対象の研究に基づいています。Derr先生によれば、膨大な数の社会人にヒアリングした結果から、人生やキャリアに対する社会人の「基本的な価値観」(大切にしたいこと)、具体的には「どのような人生を生きたいか、どんな働き方をしたいか」は、大きく次の5つの方向に集約できることがわかっています。
1 上昇(Getting Ahead)
2 安全(Getting Secure)
3 自由(Getting Free)
4 成長(Getting high)
5 バランス(Getting Balanced)
では、それぞれの「方向」を持つ人は、おおよそどんな考えや価値観を持ち、どんな行動を取る傾向があるのかを以下で説明します。
上昇(Getting Ahead)
「上昇」(Getting Ahead)は、元々の英語では「Ahead」(先んじる)という言葉が使われていますが、上昇志向を持っている人の考え方を指しています。そこで「上昇」というキーワードを与えています。いわゆる典型的な「社会的成功」を人生・キャリアで求めている人です。
したがって、なによりも昇進を望みます。昇進に付随する権限・責任を喜んで受け入れます。昇進のために、仕事上の挑戦を好みますし、プロセスよりも成果を出すことを重視します。成果を出さなければ昇進につながらないからですね。
安全(Getting Secure)
人生・キャリアにおいて、安全や安定を大切だと考えることです。逆に言えば、できるだけリスクを回避したいということですね。日本では「安定志向」という言い方が一般的でしょうか。このため、職業・会社の選択においても「雇用安定性」を重視します。大企業への入社や公務員になることが目標の方が多いでしょう。あまりいい意味では使われないのですが「寄らば大樹の陰」の発想で行動します。
ただこれは、一方で「会社」のためという意識が強いですし、また成果を独り占めするのではなく、仲間と分かち合う方が喜びと感じる方が多いので、組織にこうした方々がある程度いないと、まとまりのある企業にはならないということは言えます。
自由(Getting Free)
文字通り、自由で縛られない生き方を標榜することです。
会社の規律を嫌い、平気で遅刻したり、会議は無駄だと勝手に欠席するような人は、おおむね「自由」の羅針盤を意識的(または、無意識的)に持っていると考えられます。ただし、あくまで自分らしさを追求するためにそうしているのであって、単なる「ずぼら」とは異なります。そうした人は、そもそも社会人としての基本的な生活習慣が身についていないだけの話です。
「自由」を追求している典型的な有名人は現メジャーリーガーのイチローが挙げられるでしょう。彼は、一人の社会人としての人間性は言うまでもなく高いですよね。ただ、こと野球という彼のキャリアについては明確な持論があり、他人の意見に妥協することはまずありません。わが道を行くという表現がぴったりなのが「自由」の方向性です。
成長(Getting High)
元の英語(Getting high)を直訳すれば、「高みを求める」と言えます。ここでの「高み」というのは、昇進するという意味ではなく、より楽しいこと、面白いこと、また自分の能力が伸長できることを重視することです。その意味で、「成長」という日本語を当てています。
「成長」を大切に思う人は、何よりも自分の能力が発揮できる場を求めます。ですから、報酬や権限よりも、自分の成長が実感できたり、やっていて楽しい、そんなわくわくできる仕事を優先するのです。アイディア志向でもあり、仕事のやり方も常に創意工夫しますし、変化を求めます。自分の能力を極めることに邁進するということでは、「職人」気質だともいえますね。ただ、一方で変化を求める分、ちょっと飽きっぽいところもあるのが「成長」の方向を持つ人です。
バランス(Getting Balanced)
仕事と私生活のどちらか一方に偏りすぎないで、うまくバランスを取っていきたいと考えることです。
働くときはしっかり働く、休むときはしっかり休むという切り替えができるという意味であって、私生活を最優先するということではありません。したがって、必要なときにはハードワークをいとわない。
ただ、基本的には余裕のある生き方を重視しますので、あえて昇進の話を断ったり、転勤を避け、地方在住にこだわるという判断をすることが多いでしょう。
キャリアの羅針盤、あなたはどの方向に近い?
さて、上記に示した羅針盤の5つの方向ですが、あなたはどれにもっとも近いですか?
そもそも多様な価値観をある程度強引に集約したものですので、これらのうちどれかに当てはまらなければならないいうものではありません。あなた自身の「キャリアの持論」形成の参考としていただきたいのです。
なお、どれかひとつではなく、複数の方向性のミックスであることも多いでしょう。たとえば、先ほど「自由」の例として挙げた、イチローは、正確には「成長」と「自由」のミックスでしょう。
自分らしさを追求するために孤高を保ち、周りに迎合しない自由な生き方と、仕事を通じて、自分の能力を磨きたいという意識の両方を併せ持っている。だからこそ、あえてリスクを取って、メジャーリーグに移ったわけです。また、メジャーリーグでは、トレーニングも本人のペースで取り組むことができますから、組織的な行動が求められる日本のプロ野球よりも、自由」を志向するイチローにははるかに居心地がいいんじゃないでしょうか。
なお、ついでに申し上げると、私の羅針盤も「成長」と「自由」のミックスです。
ですから、安定性は低いが、やりたい仕事があれば自由に取り組め、組織の規律にも縛られることのない「独立自営」という道を最終的に選んだのです。
羅針盤を頼りにキャリアの道を歩みましょう!
これから、あなたを取り巻く社会・経済の変化はますます加速するでしょう。
キャリアについての何らかの目標・ゴールを持つことは必要ですが、その目標・ゴールに到達するためのロードマップ(行き方)は、固定されたものではなく、日々変わり続けます。昨日まであったはずの道が突然消えたり、いきなり大きな落とし穴ができていたり、視界ゼロメートルの霧が発生したりします。
したがって、キャリアの目標・ゴールまでどのように行くかは、一度計画を立てればOKではなく、しょっちゅう見直して柔軟に軌道修正しなければならないのです。そんな時にぜひ手に持っておきたいのが、「キャリアの羅針盤」です。「キャリアの羅針盤」を持つこと、言い換えると、あなたが納得できる幸せな人生・キャリアのために「何が大切か」をはっきりと自覚しておけば、目先の欲望や無責任な周囲の意見に惑わされず、迷いのない決断ができるでしょう。
なお、キャリアの羅針盤を持つことも、そうすぐにできることではありません。自分が人生で何を大切にしたいのか、まだよくわからない方もいらっしゃるでしょう。また、途中で方向自体が変わっていくこともありえます。毎日の生活の中で、じっくりと方向性を見極めていきましょう。(もちろん、できるだけ早い段階で方向が明確化できるに越したことはありません)
(文責)松尾順
2007年2月22日


