
キャリアエッセイ(キャリア塾 on site)
今週は、先週に引き続き、「ビジョン型」と「価値観型」についてお話したいと思います。
平本氏によれば、人の「やる気の素」を「自分軸」と呼び、その自分軸の傾向として大きくは、目的志向=「ビジョン型」と、価値観志向=「価値観型」に分かれるのでした。
「ビジョン型」と「価値観型」(後編)
こんにちは!
A・ヒューマンキャリア塾塾長の松尾です。
今週は、先週に引き続き、「ビジョン型」と「価値観型」についてお話したいと思います。
平本氏によれば、人の「やる気の素」を「自分軸」と呼び、その自分軸の傾向として大きくは、目的志向=「ビジョン型」と、価値観志向=「価値観型」に分かれるのでした。
「ビジョン型」は、未来に実現したい自分の「ありたい姿」を思い浮かべ、「あの姿にたどりつきたい」と思うことでモチベーションが上がる人。「夢」、「目標」と聞いてわくわくする人。一方、「価値観型」は、今までの経験のなかで育まれてきた「自分らしさ」に基づき、「自分にとって大事なことで一日一日を満たしたい」と思うことでモチベーションが上がる人ということです。
欧米に留学などをされた方はおわかりだと思いますが、あちらでは「ビジョン」を重視しますよね。いわゆる「アメリカンドリーム」のような、高い目標を掲げて必死でがんばることを尊ぶ風潮があります。確かに「目標」はあったほうがいいということは、私もこれまで繰り返し書いてきました。
“しかし、目指すべき目標がないと成功できないのか、成果を上げることはできないのか、そんなことはありません”
平本氏はこのように述べています。私も同感です。
目標に向かって努力することによって成功する人も入れば、目先の仕事を大切に懸命にやっていたら結果的に成功を手にしていた人、世の中にはどちらのケースも多数存在しているのです。つまり、
「成功するためには、ビジョンや目標が明確でなければならない」
という硬直的な発想は正しくないということですね。
さて、先週の記事の最後に、私は次のような質問を投げかけました。
“あなたは「ビジョン型」ですか、それとも「価値観型」ですか?”
「ビジョン型」と「価値観型」のどちらが良い・悪いということではありません。どちらが自分に合っているか、やる気につながるかという点が重要です。
では、この両者の違いを平本氏の考え方に沿って、もう少し詳しく見ていきましょう。
たとえば、就職や転職をするとき、会社を決める時の指針がビジョン型と価値観型で異なります。
ビジョン型の人は、何年後にこんな仕事をしたいということを先に決めてしまいます。そして、その目標達成のために、どんな業種のどんな職種に就くべきかをきっちり計画するのです。一方、価値観型は、「クリエイティブな発想が活かせる」「マイペースでルーティンをこなす」「チームワークで成果を出す」といった、仕事における価値観が満たされるかどうかが会社や仕事を選ぶ際の指針になります。つまり、何の仕事をするかというよりも、どんなふうに仕事をするかが大事なため、業種や仕事そのものへのこだわりはビジョン型ほど強くないと言えます。私は価値観型なので実感としてわかるのですが、自分の裁量範囲が大きく日々工夫を重ねることが可能で、新たな発見や自己の成長の機会が与えられるなら、業種、会社、職種はなんでもいいかなと思います。(ちょっと極論ですけど)
また、何かを学ぶときの動機付けについても、ビジョン型は、たとえば「5年後には起業して自分の会社をつくる」といった目標に対して、「刻々と近づいている」という「近づいてる感」を持てることが日々のやる気につながります。一方、価値観型は、将来の目標のために、この知識が必要だという考え方をしてもあまりピンときません。たとえば、既存の顧客に対してより高品質のサービスを提供することが重要であるといった価値観に照らして、「この知識が役に立つ」と考えると、がぜんやる気がわくのが価値観型なのです。平本氏は、
“価値観型にとって大事なのは「満たされた感」。”
と指摘しています。
ところで、末尾に示した引用文献の中で、平本氏が具体的な人物として挙げているのは、ビジョン型ではプロゴルファーの宮里藍選手、価値観型では、メジャーリーガーの松井秀喜選手です。宮里選手には、全米ツアーで優勝するという目標があります。その目標に向けて、国内ツアーを一つ一つこなしています。一方の松井選手は、以前テレビ番組に出演した際「僕は目標を立ててもあまり意識していなんですね」と語っていたそうです。実際、彼の座右の銘は「一日一生」です。一日一日を大切に生きたいと考えているのが松井選手なのです。もちろん、彼が、野球選手として大きな成功を収めていることはわざわざ言うまでもないことですよね。
ビジョン型であれ、価値観型であれ、最終的に「成果」につながることは大事です。ただし大きな違いは、
・ビジョン型は、成果を(始めから)目指す
・価値観型は、成果を(結果として)引き寄せる
という点にあるのです。
さて、人によってビジョン型か価値観型かの傾向が分かれる「自分軸」(=やる気の素)ですが、前述したように良い・悪いではなく、自分に合っているかどうかが重要。つまり、自分に取ってしっくりくるならばなんでもいいのです。ただ、自分にとっての「自分軸」はどんなものかを明確に認識していることによって、日々の行動にぶれがすくなくなり、確実な成果につながりやすくなります。
一人ひとり異なる「自分軸」の見つけ方については、末尾の引用文献に詳述してありますのでそちらをご覧いただくとして、ここでは、平本氏が指摘する「自分軸」にはならない7つの条件をご紹介したいと思います。あなたが今自分軸だと感じることが以下の7つに該当しているようであれば要注意です。
1. 人に言われたこと
あなたはこれが向いているんじゃない、などとほめられたことをきっかけに、そう思い込んでいるだけかもしれません。
自分軸は、自分の中から掘り起こすものです。
2. 人に要求・期待されたこと
たとえば、「我が家は代々弁護士だ。だから、お前も弁護士になれ」と親に言われて弁護士を目指している人。他人の期待に応えているだけではないでしょうか?
3. みんながやっているからやっていること
これからは、この職業が有望だから目指すことにした。この発想自体を否定はしませんが、それが本当に自分にとって適性があるのか、好きになれることなのかをよく考える必要があります。
4. やらないと不安だからやること
不安をなくしたいというネガティブな理由で何かに取り組むこと。たとえば、「英語ができなきゃ出世できないよ」と言われ、あせって勉強する。これはこれでいいと思うのですが、自分軸ではないですね。自分軸は、基本的に「こうしたい・こうなりたい」という思いの実現につながるものです。
5. 気晴らしや現実逃避でやること
多忙な毎日を送っていると、たまに「ハワイでのんびりとした生活を送りたい」といった願望が浮かぶものですが、実際そうした生活を体験してみたら、退屈で仕方がないかもしれません。単なる気晴らし、現実逃避は本当にあなたが人生で求めているものではない可能性が高いですよね。
6. 過去からの思い込み
価値観やビジョンは、世の中の変化やあなた自身の成長によって、変わることもあります。わき目もふらず働き続けていたビジネスパーソンが、子供の誕生と同時に、家庭とのバランスを取ることを重要にするようになるということもありえます。「昔の決意にしばられることなく、今の自分にとって何が大事か」を見直し、「本当はどうなればいいか?」と、あくまでゼロベースで考えることが大事だと平本氏は書いています。
7. 中毒ではまっていること
思考や行動のクセは、長く続けているとなかなかその枷(かせ)から逃げられないものです。「過去からの思い込み」と似ていますね。たとえば、仕事で「効率・効果」を常に考えざるを得ない状況に置かれていると、プライベートでも無意識にそんな考え方に陥ってしまう。本当の自分が求めているかどうかに関わらず、特定の価値観によって自分が支配されてしまうのです。一歩引いて、自分のビジョンや価値観を客観的に眺めてみることが必要でしょうね。
なお、平本氏は、自分軸とは、無理に考えてひねり出すものや、人から押し付けられるものではなく、気づかなくても、作り出さなくても、
「自分のなかに当たり前にあるもの。消すことができない思い」
のことだと考えています。だからこそ、「やる気の素」になるわけです。
実は、「キャリアデザイン基礎講座」の第3回「キャリアの目的」で強調している「キャリアの持論」とは、平本氏の言う「自分軸」とほぼ同じものを指しています。キャリアの持論とは、自分自身が心から受け入れられる「キャリアの目的や意味」のことだからです。
by 松尾順
(引用文献)
『成功するのに目標はいらない』(平本相武著、こう書房)


