
キャリアエッセイ(キャリア塾 on site)
「自立」とは何か?
こんにちは!
A・ヒューマンキャリア塾塾長の松尾です。
先月(07年8月)に、当コーナーで
“キャリアにおける自立と自律”
」というテーマを取り上げたばかりですが、今月(9月)の14日、日経ビジネスオンラインの人気コラム、遥 洋子の「男の勘違い、女のすれ違い」に、
“自立とは何か”
というテーマの記事が掲載されました。
上記記事はとても示唆に富む内容でしたので、そのポイントをご紹介しつつ、
私の考えも補足してみたいと思います。
遥氏は、社会学者、上野千鶴子氏の講演に久しぶりに出向いたそうです。
講演テーマは、“自立とは何か?”。そして、この講演で問われていたのは、“自立”は“手段”なのか“目的”なのかということでした。
さて、「自立」には、経済面と生活面と精神面の3面があるそうです。
具体的には、自由にできるお金があり、自分ひとりで日常の家事をこなせ、誰かに頼らず生きている、という人は、「自立」している人だと言えます。
もちろん、この3つの面(条件)を網羅できる人はそれほど多くはいません。
遥氏は、家事能力のない仕事漬けの男性や、生活力は万全だが夫に依存する女性もいると述べ、この男女のコンビは夫婦としてよく成立していると指摘しています。お互いに欠けている部分を補足しあっているからですね。
しかし、上記の3つの面をすべて満たしているわけではないので、夫婦のどちらも真の「自立」を果たしているとは言えません。遥氏はこのように考えていました。
そして、一見、上記の3つの条件を満たしているように見えるのが、
「キャリアウーマン」
だと遥氏は続けます。
たった一人でも生きられる最強の“負け犬”とも呼ばれますが、遥氏もまたその一人です。
ただ、こんな強い遥氏も、友人の主婦たちの面倒を見なければならない点を負担に思っていたそうです。私の車で送っていかなければならない友達、おごってあげなきゃいけない友達など、遥氏は、彼女たちは自立していないからそうなるのだと理解していました。
そこで、上野氏の講演に向けての「参加者意見カード」に、
「自分だけ自立していても、他の友達が自立していないと結局孤立する」
と書いたところ、上野氏が講演の中でこの遥氏の意見を取り上げ、
「自分だけは自立していると明言なさるが、そんなあなたは周りから浮いているはずだ」
ときついコメントを投げかけたそうです。
続けて、上野氏は非常に重要な示唆を講演参加者に示します。
「自立は、人が自由に生きられる、そのための手段として自立があるのではないか。なにも自立のための能力すべてを自らが持っていなくてもいい。誰か持っている人から調達すればいい。まず、自分が何をやりたいかが、はじめに問われる・・・」
上野氏のこの言葉を聴いて、遥氏は自分の勘違いに気づきます。友人の主婦たちは自立していないのではなく、遥氏の車やお金を必要におうじて調達しただけだということに。
そしてまた、遥氏自身は、確かに経済的、生活的、精神的に自立はしているけれども、果たして「やりたいこと」が明確にあるだろうかと自問せざるを得なかったようです。
遥氏は、当コラムを次のような言葉で締めくくっています。
“自立はトンカチに似ている。持っているからといって、何も作らなければ、ただのトンカチだ”
上野氏の言葉によって遥氏が気づきを得たように、
私にとっても、「自立」とは、自分のやりたいことをやるための
「手段」
であるという考え方は新鮮でした。
確かに、たとえば、「貧すれば鈍す」ではありませんが、経済的にぎりぎりな状況であれば、「自分のやりたいこと」にこだわっていられない場合が多いですよね。まずは、稼げる仕事をなんとかして見つけるしかない。
とはいえ、
・金持ちになること
・安定した暮らしを得ること
・誰にも頼らないでも生きていけるようになること
といった自立の条件自体を「目的」にしてしまうのは避けたほうが良いですよね。
なぜなら、これらの目的を達成してしまったら、自分のやるべきことがなくなってしまうからです。よく、身を粉にして働いて莫大な財産を築いたものの、そもそも自分の生きる意味がはっきりしないために精神的に参ってしまう人がいます。こうした人は、「自立」すること自体を目的にしたことが問題だったのではないでしょうか。
また、裕福な親の遺産を受け継いだ2代目の人たちは、親のおかげによって自立の条件をほぼ満たしています。(精神的な自立は?ですが)。しかし、やはり、自分がこの世に命を受けた意味、端的にいえば
「命の使い方」=「使命」
を見つけることをせずに成長した結果、せっかくの財産を浪費するだけになってしまう人もいますね。
ですから、私たちが自分のキャリアをデザインするに当たっては、
まずやりたいことを明確に、また現時点では明確でなかったとしても、模索し続けると同時に、まずは自立を果たせる仕事なり職業を選択するということが必要だと言えるでしょう。
なお、遥氏は書かれていませんし、明確に自覚されていないようですが、「自立」の先には
「相互依存」
があります。
私たちは社会の中でお互い、自分ができることを他人にしてあげ、逆に自分はできないことを他人にしてもらっています。つまり、お互いに依存しあっている。言い換えると補完しあっています。
社会的な動物である私たち人間は、「相互依存」がごく自然な生き方なのです。
ですから、無人島に一人ぼっちで住む人はさておき、私たちは、そもそも完全なる「自立」を目指す必要はないのです。
by 松尾順


